2006年 04月 16日
任期法は労基法の例外?労基法違反?
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今日は,「大学の教員等の任期に関する法律」(以下『任期法』) についてまじめに考えてみたい.
任期法 (1997年施行) が導入される前後,世間では,全国の専任教員や専任教員の組合がそろって任期法反対を叫んでいたが,その後,自分たちに対して適用されない限りは反対しない,というスタンスになってしまったようであるのは残念なことだ.
立命館大学の専任教職員を組織する組合が加盟する京滋私大教連も,下のリンクのような声明を1997年に出している.
http://www.bekkoame.ne.jp/~kfpu/plan/kfpu970408.htm
憲法はじめ,教育基本法やらユネスコ勧告やらをひいて,とてもいいことが書いてあるから一読されたい.
さて,そもそも任期法が制定されたのは,国立大学の教員に任期をつけるのが目的であったと思う.国家公務員は終身雇用が原則で,それ以外は日々雇用に代表されるようなとんでもない不安定雇用しかなかった (国公法や地公法などの縛り).その中間の,有期雇用を合法化しようというものだ.
私立大学の教員は公務員ではないから,そういう意味では,任期法以前も有期雇用が可能だったが,当時の労基法には,有期雇用は最大1年という制限があった.
そこで,国公法や地公法や労基法の例外規定として,任期法を作って大学教員だけ,特別に5年までの有期雇用ができるようにした・・・のだと,さっきまで思っていたが,調べてみると全く違った.
まず,そもそも,労基法というすごく「偉い」法律の例外を,任期法なんていう「偉くなさそう」な法律が規定できるものなんだろうか,という素朴な疑問があった.
任期法を読んでみると,これこれの条件で任期がつけられる,と書いてあるだけで,5年までとかいうようなことは何も書いていないし,労基法の例外であるというようなことも書いていない.そんないいかげんな規定で,労基法の例外が規定できるものなんだろうかと思ってさらに調べると,モウレツな国会質疑に行き着いた.すごすぎる.
こんなすごいものがあったとは...と,自分の不勉強を反省するとともに,世間でなんで話題にならなかったのか不思議に思いつつ,このブログの読者も増えていることだし,ここで改めて問題にしておこうと思う.
あまりにもすごすぎて何を言ったらいいのかわからないので,ここから先に関係部分を全部引用して,解説はつけないことにする.読者のみなさんはそれぞれのやり方で味わってください.
では,どうぞ,お楽しみください!
1997年5月21日 衆議院 文教委員会
○保坂委員 ・・・ 次のテーマなのですけれども、これは労働法制の問題なのですが、労基法十四条に、「労働契約は、期間の定のないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるものの外は、一年を超える期間について締結してはならない。」という点があります。ここの部分と、今回、国公立の大学及び私立大学が入っているわけですから、ここを労働省としてはどういうふうにお考えになっているのかという点について率直に、端的に見解をお願いしたいと思います。
○青木説明員 通常、一般に行われています労働契約は、期間の定めのない契約ということになっておりますけれども、そのほかに、一定の期間を定めて労働契約を締結するというような場合も一方であるわけでございまして、そういう場合には、今御指摘がありましたように、労働基準法上では、土木工事のような事業の完了に必要な期間を定めるといった一定の場合以外は、不当な長期の人身拘束を排除するという趣旨から、一年を超える期間を定める労働契約の締結を禁止しているところであります。
こういった趣旨でございますので、労働者の側の退職の自由が保障されているいわゆる雇用保障期間というようなものであれば、一年を超える期間を定めても労働基準法十四条には違反しないという解釈を従来からとっているところでございます。
本法律案による任期制は、五条五項にも定められているように、任期中、教員がその意思により退職することを妨げるものであってはならないというふうに規定されているように、任期の途中であっても大学教員の退職の自由は確保されているというものでございますので、本任期制は労働基準法十四条には違反しないというふうに考えております。
○保坂委員 文部省の「大学の教員などの任期に関する概要」というペーパーにも同様の注が打ってあって、要するに「労働者側からはいつでも解約できる「雇用保障期間」として設定するならば適法」だというような認識、これは恐らく労働省と文部省の間ですり合わせられたのだと思いますけれども、これはすりかえじゃないかと思うのですね。
要するに、今任期制が問題になっているのは大学における研究、長期的なスタンスでこれに臨まなければいけないというときに、いつでもやめられるから適法ということであれば、これは大学の教員以外のそれこそ全産業にまたがる労働者は、三年なり五年なり六年という任期を定めて就労することができるという解釈にならないですか、その点お願いします、もう一度。
○青木説明員 今申し上げましたように、労働者サイドからいっても退職することができるという内容の契約でありますれば、労働基準法には抵触しないということでございます。現にそういったような形での労働契約も少なからず締結されているのが実態であるというふうに認識しております。
○保坂委員 そうすると、従来の労働省や労基法の指導あるいは最高裁の判決などには、そういうふうに労働者がいつでも職場をおりることができれば契約期間を定めていいというふうにあったとは思えないのですけれども、今後はそういうふうに方針を大転換したということですか。この任期制法案の中にそういう新たな解釈というのを盛り込んで、これからはそれでいくということですか、お願いします。
○青木説明員 今申し上げました解釈につきましては、従来から労働省がとっているところでございまして、今度の本法律案の提出を契機に解釈を変えてそういうふうにしたというものではございません。
・・・
○保坂委員 最後に、先ほどの労基法の問題については大変重要な点を含んでいると思います。そして、先ほどの労働省の見解がそのままだとすれば、これは日本社会全体が相当ひっくり返るぐらいのことがこの先起こっても不思議ではないというぐらいの問題だということを申し上げて、時間が参りましたので終わりたいと思います。
以上
なお,記事中の法令や資料へのリンクは,こちらにまとめて入れてありますのでご利用ください.
任期法 (1997年施行) が導入される前後,世間では,全国の専任教員や専任教員の組合がそろって任期法反対を叫んでいたが,その後,自分たちに対して適用されない限りは反対しない,というスタンスになってしまったようであるのは残念なことだ.
立命館大学の専任教職員を組織する組合が加盟する京滋私大教連も,下のリンクのような声明を1997年に出している.
http://www.bekkoame.ne.jp/~kfpu/plan/kfpu970408.htm
憲法はじめ,教育基本法やらユネスコ勧告やらをひいて,とてもいいことが書いてあるから一読されたい.
さて,そもそも任期法が制定されたのは,国立大学の教員に任期をつけるのが目的であったと思う.国家公務員は終身雇用が原則で,それ以外は日々雇用に代表されるようなとんでもない不安定雇用しかなかった (国公法や地公法などの縛り).その中間の,有期雇用を合法化しようというものだ.
私立大学の教員は公務員ではないから,そういう意味では,任期法以前も有期雇用が可能だったが,当時の労基法には,有期雇用は最大1年という制限があった.
そこで,国公法や地公法や労基法の例外規定として,任期法を作って大学教員だけ,特別に5年までの有期雇用ができるようにした・・・のだと,さっきまで思っていたが,調べてみると全く違った.
まず,そもそも,労基法というすごく「偉い」法律の例外を,任期法なんていう「偉くなさそう」な法律が規定できるものなんだろうか,という素朴な疑問があった.
任期法を読んでみると,これこれの条件で任期がつけられる,と書いてあるだけで,5年までとかいうようなことは何も書いていないし,労基法の例外であるというようなことも書いていない.そんないいかげんな規定で,労基法の例外が規定できるものなんだろうかと思ってさらに調べると,モウレツな国会質疑に行き着いた.すごすぎる.
こんなすごいものがあったとは...と,自分の不勉強を反省するとともに,世間でなんで話題にならなかったのか不思議に思いつつ,このブログの読者も増えていることだし,ここで改めて問題にしておこうと思う.
あまりにもすごすぎて何を言ったらいいのかわからないので,ここから先に関係部分を全部引用して,解説はつけないことにする.読者のみなさんはそれぞれのやり方で味わってください.
では,どうぞ,お楽しみください!
1997年5月21日 衆議院 文教委員会
○保坂委員 ・・・ 次のテーマなのですけれども、これは労働法制の問題なのですが、労基法十四条に、「労働契約は、期間の定のないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるものの外は、一年を超える期間について締結してはならない。」という点があります。ここの部分と、今回、国公立の大学及び私立大学が入っているわけですから、ここを労働省としてはどういうふうにお考えになっているのかという点について率直に、端的に見解をお願いしたいと思います。
○青木説明員 通常、一般に行われています労働契約は、期間の定めのない契約ということになっておりますけれども、そのほかに、一定の期間を定めて労働契約を締結するというような場合も一方であるわけでございまして、そういう場合には、今御指摘がありましたように、労働基準法上では、土木工事のような事業の完了に必要な期間を定めるといった一定の場合以外は、不当な長期の人身拘束を排除するという趣旨から、一年を超える期間を定める労働契約の締結を禁止しているところであります。
こういった趣旨でございますので、労働者の側の退職の自由が保障されているいわゆる雇用保障期間というようなものであれば、一年を超える期間を定めても労働基準法十四条には違反しないという解釈を従来からとっているところでございます。
本法律案による任期制は、五条五項にも定められているように、任期中、教員がその意思により退職することを妨げるものであってはならないというふうに規定されているように、任期の途中であっても大学教員の退職の自由は確保されているというものでございますので、本任期制は労働基準法十四条には違反しないというふうに考えております。
○保坂委員 文部省の「大学の教員などの任期に関する概要」というペーパーにも同様の注が打ってあって、要するに「労働者側からはいつでも解約できる「雇用保障期間」として設定するならば適法」だというような認識、これは恐らく労働省と文部省の間ですり合わせられたのだと思いますけれども、これはすりかえじゃないかと思うのですね。
要するに、今任期制が問題になっているのは大学における研究、長期的なスタンスでこれに臨まなければいけないというときに、いつでもやめられるから適法ということであれば、これは大学の教員以外のそれこそ全産業にまたがる労働者は、三年なり五年なり六年という任期を定めて就労することができるという解釈にならないですか、その点お願いします、もう一度。
○青木説明員 今申し上げましたように、労働者サイドからいっても退職することができるという内容の契約でありますれば、労働基準法には抵触しないということでございます。現にそういったような形での労働契約も少なからず締結されているのが実態であるというふうに認識しております。
○保坂委員 そうすると、従来の労働省や労基法の指導あるいは最高裁の判決などには、そういうふうに労働者がいつでも職場をおりることができれば契約期間を定めていいというふうにあったとは思えないのですけれども、今後はそういうふうに方針を大転換したということですか。この任期制法案の中にそういう新たな解釈というのを盛り込んで、これからはそれでいくということですか、お願いします。
○青木説明員 今申し上げました解釈につきましては、従来から労働省がとっているところでございまして、今度の本法律案の提出を契機に解釈を変えてそういうふうにしたというものではございません。
・・・
○保坂委員 最後に、先ほどの労基法の問題については大変重要な点を含んでいると思います。そして、先ほどの労働省の見解がそのままだとすれば、これは日本社会全体が相当ひっくり返るぐらいのことがこの先起こっても不思議ではないというぐらいの問題だということを申し上げて、時間が参りましたので終わりたいと思います。
以上
なお,記事中の法令や資料へのリンクは,こちらにまとめて入れてありますのでご利用ください.
by gurits
| 2006-04-16 11:24
| 任期法