2006年 05月 28日
職場の人権研究会 レジメ
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職場の人権でのレジメを転載します.pdf版はこちら.
職場の人権 研究会 2006・5・27
ある私立大学の雇用差別と労働強化-使い捨てられる大学教職員-
ゼネラルユニオン 遠藤礼子
1. 立命館での「多様な雇用形態」= 労働者の使い捨てと分断
学校法人立命館には,期限のない「正規」「終身雇用」の教員と職員は,あわせて約2000人いる.
一方,非正規の教職員は「非常勤講師」が約1000人,「常勤講師」と「嘱託講師」をあわせて約300人,「契約職員」約300人,「アルバイト職員」約100人,その他もろもろあわせて約2000人と,非正規と正規はほぼ同数である.
【専任教員・専任職員】
正社員に相当する部分.専任教員・専任職員を組織する教職員組合は05年のボーナス1ヶ月カット問題で,授業時間に10分間くいこむストライキを貫徹した.だがボーナスカットは押し切られたまま.
【任期制教員】
通常5年契約で,更新ありのものとなしのものがある.任期制教授,任期制助教授,任期制講師.
【常勤講師】
週10コマ担当でフルタイムの3年契約.ただし契約書は1年契約の2回更新という形式で,そのあとに,オマケでもう1年というのが慣習化していて,実質は4年契約.年収約650万円 (諸手当込み).ほぼ全員が外国人の語学教員.4年たてば自動的にクビ.2005年に制度廃止が決定.
*同じ「常」でも「常用」なら期限の定めのない,という意味だが,「常勤」はフルタイムの意味.
【常勤講師制度の歴史】
1988年「1年契約 更新可」 として開始.協定校からの派遣.常勤講師5名.
1991年「3年契約」に変更.応募対象を日本在住者にも拡大.3年契約は少なくとも1999年までは行われ,その後,「任用期間3年 (ただし,契約は日本国の労働基準法に基づき毎年締結する)」という形になった.
1997年常勤講師27名体制に.
2002年常勤講師47名体制に.嘱託講師制度開始.
2003年常勤講師33名体制に.
2005年常勤講師制度廃止決定.2005年度採用の常勤講師が4年目を迎える2008年度末にすべての常勤講師がいなくなる,というのが当局の目論見.
【嘱託講師】
週10コマ担当でフルタイムの5年契約.2002年開始.ただし契約書は1年契約の4回更新という形式.年収420万円.外国人が大半だが日本人も多い.この手の制度を日本人講師に本格的に適用する例は珍しい.語学教員.5年たてば自動的にクビ.
【非常勤講師】
コマ単位の1年契約で,通常一校で2~5コマ程度担当.あちこち掛け持ちして週10コマ担当しても,年収300万円.私学共済などへの加入を多くの大学が拒否しているため,その中から国民健康保険と国民年金を捻出.
年数の上限はないので「うまくいけば」何年でも働けるが,毎年コマ減や雇い止めの不安がある.
【契約職員】
フルタイムの3年契約.ただし契約書は1年契約の2回更新という形式.事務職員の多くがこの契約職員で,1年目は仕事がわからない,2年目に慣れてきても,3年目は「どうせ来年はここにはいない」.年収約230万円.3年たてば自動的にクビ.
この制度は多くの大学 (私立も国立も) が導入しており,3年ごとに大学を転々とする職員も多いという.
【アルバイト職員】
フルタイム (35時間) の十一ヶ月契約.八月は仕事も給料もない.更に2回更新までという年数制限さえついている.時給800円.フルタイムなのに社会保険なし=健康保険法,厚生年金保険法違反.
実際は,これ以外にもまだまだたくさんある.
2. 常勤講師問題の「改善」としての常勤講師・嘱託講師制度
全国の多くの大学の教育は,非常勤講師に依存している.授業の50%近くを非常勤講師が担当している場合も少なくない.特に語学教育 (少人数クラスが必須) では,8~9割を非常勤講師が担当というのも珍しくはない.
非常勤講師の待遇が劣悪で,雇用が不安定であることは,今や社会問題となっている.最近になって,その改善のために,ようやく一部の大学では,賃上げや有給休暇の制度化などの労働条件の改善や,合理的な理由のない減ゴマ雇い止めの防止のための方策をとりはじめている.
一方,立命館大学では,2001年にコマあたり月給で100円の賃上げ (一部のランクのみ) をしたのを最後に,2004年に文科省の補助金の非常勤講師給の単価が1.5倍化されて,各大学が,大小の賃上げをしているにもかかわらず,1円の賃上げも行っていない.また,「より専門適合性がある人がいた」 ということが,減ゴマや雇い止めの合理的理由となるという新しいルールまで作って,雇用の不安定化を促進している.
このように,劣悪で不安定な非常勤講師の労働環境を一切改善することなく,「非常勤問題の改善」として打ち出したのが,常勤講師や嘱託講師の制度なのである.
さらに,2006年4月4日京都新聞掲載のインタビューの中で立命館の長田総長はゼネラルユニオンのストライキについてこうコメントしている.
「非常勤講師の雇用問題に対しては、語学教育の再編を考えている。専門の語学講師を派遣する会社を数年内にもつくりたい。教育の質が良くなるし、非常勤に頼るいびつな形も解消することができる。」
3. 3~5年ルール
このように,非常勤講師問題を解決するものとして,導入・拡大された,フルタイムの有期雇用講師の制度だが,問題は,そのすべてに,3~5年の雇用年数の上限を定めていることである.
1年契約×3 = 3年でクビ契約職員 約300名
11ヶ月契約×3= 3年でクビアルバイト職員 約100名
1年契約×4 = 4年でクビ常勤講師
1年契約×5 = 5年でクビ嘱託講師 計約300名
* これは,大学がゼネラルユニオンとの団交の席で説明した数字だが,研究会の後に,立命館の関係者より,アルバイト職員は100人ということはありえない (ずっと多い) という指摘があった.
大学の外でも,有期雇用は急激に拡大しているが,有期雇用の更新回数に上限を定めているものは少ない.しかし,大学・高校では,なぜかそれが「常識」となっており,大学・高校での,有期雇用のポストのほとんどに,更新回数の上限がある.
立命館は,このような雇用形態を全国にさきがけて導入した学校で,教職員あわせて約1000名という規模の大きさでも群を抜いている.
驚くべきことだが,「3~5年の雇用年数の上限」がどんなに残酷なものか,常用で働いている人には,理解できないことが多い.もしあなたが 「この不景気の中で3~5年間でも保障されているならそれだけでもありがたいと思えないの?」 と思ったなら,もういちど当事者の身になって考えてみてほしい.
3年ごとに職を失うというのは,3年ごとに求職活動をしなければならないということだ.求職活動は,最も楽に決まった場合でも,非常にストレスの多いものである.3年ごとに職を失い,学校を転々としなければならないのは,自分が好きで転職するのとは全く話が違う.よく,契約書にサインしたから自己責任などと冷たく言う人もいるが,好きでこのような雇用年数上限のあるポストを選んでいる者はひとりもいない.
そして,言うまでもなく,大量のスタッフが次々と入れ替わることが仕事や教育の効率を悪くすることはあっても良くすることはない.
このような首切り使いすて制度が,言葉を変えるとこのような話になるという例を紹介する.
(不当労働行為の審査のために大学が労働委員会へ提出した,立命館大学専任教員の陳述書より)
これは,立命館大学の専任教員が,ビラ撒きをしたゼネラルユニオンの組合員に,電話で話した内容のうち,大学当局公認の部分である.実際は後述の通りもっとすごいことを言ったようだが,この大学公認の部分ですら,当該や当該の立場に立って考える者にとっては,ナンセンス極まりない.
しかしこれが,多くの専任教職員の認識であり,また,大学当局の認識である.残酷きわまりない首切りシステムを教育経験が広がってよろしい,と解説して平然としていられる人権感覚は,決してこの専任教員ひとりのものではない.この発言者には実際全く悪意はないのである.
こんな意味のない3-5年ルールが何故あるか.(「教育経験が広がってよろしい」的な理由を除けば) 唯一の理由は,3年以上雇うと,期限の定めのない雇用とみなされて,そのあと合理的理由なく解雇できなくなると困るから,というものである.
4. 雇用形態が変われば継続雇用は可能?
実際このような3-5年首切りシステムは,現場では嫌われている.せっかく仕事になれた職員,せっかく学校のシステムになれてきた教員を,なぜクビにして,また新しい人に一から仕事を教え,システムを説明せねばならないのか.
そこで,立命館では,各種の裏技を使って,雇用継続をしている例がたくさんある.原則は「雇用形態を変える」というものだ.典型例は以下のふたつ.
【例1】 教員の場合
常勤講師 (4年でクビ) のあと,1年間,非常勤講師として働き,その後,常勤講師として再雇用する.
【例2】 職員の場合
契約職員 (3年でクビ) のあと,クレオテック (後述) の社員として再雇用し,同じ職場に派遣社員としてもどる.
この方式は,広く行われていたものだが,もちろん全員に適用されてたわけではない.一部の人だけに,こういう特別な雇用継続が行われていただけである.
しかし,特に【例1】は,「3年以上雇うと,期限の定めのない雇用とみなされて,そのあと合理的理由なく解雇できなくなる」 という立命館の危惧とぶつかるため,今後はまかりならんということになり,2005年度からは,年限を迎えた教員は 「非常勤講師としても雇用継続は不可能」 ということになった.
実際,昨年4年目を迎えた常勤講師には,講師不足であったにもかかわらず,非常勤講師としての雇用継続はなかった.しかし,何故か,当局は,そんな方針はない,従前どおり雇用継続が変われば継続雇用は可能だと説明している.
5. クレオテック
ここまでで見てきた,直接雇用の労働者以外に,直接雇用されない多くの労働者が学校法人立命館では働いている.そのほとんどに関係しているのが,株式会社クレオテックである.
株式会社クレオテックは,学校法人立命館の100%出資の営利企業で,役員はすべて,立命館からの出向 (あるいは兼職) である.『大学変革 哲学と実践』によれば,クレオテックは「アウトソーシングで人的,資金的な効率化を図る」ための会社だそうで,新聞報道によれば,04年度の年商は,約75億円である.
ただし,クレオテックがやっていることのほとんどは,アウトソーシングのコーディネートだけであり,実際に仕事は請け負うのは別の会社や個人である.
駐輪場の自転車の整理を,A社という請負会社が請け負っている.それ自身はそんなに新しい話でもないが,その間にクレオテックが入っている
立命館の事務室の職員の一部は,クレオテックの社員である.掃除やメンテナンスではなくて,ふつうの事務室の職員である.
授業アンケートの集計など短期の仕事もある.そこにクレオテックから派遣社員を入れている.そしてその社員は,大手派遣会社からクレオテックに派遣されている.
6. 立命館の拡張主義
1995立命館慶祥高校発足
1996理工学部に光工学科,ロボティクス学科を増設
1997大学院政策科学研究科開設
1998文理総合インスティテュート開設
2000APU (立命館アジア太平洋大学) 開学.立命館慶祥中学開校.国際インスティテュート開設.
2003大学院言語情報研究科設置.大学院先端総合学術研究科設置.立命館宇治中学校開校.
2004情報工学部設置.法科大学院開設.理工学部電子情報デザイン学科,マイクロ機械システム工学科,建築都市デザイン学科を設置.
2005大学院テクノロジー・マネジメント研究科開設.立命館孔子学院開設.
2006立命館小学校開校.立命館守山高校開設.
7. ゼネラルユニオン立命館大学支部の活動
支部設立は2002年
2005年~の活動
2005/1/21団交
2005/5/31団交
2005/6/14窓口折衝
2005/6/24門前でのビラまき①
2005/6/26門前でのビラまき②
2005/7/8労基法違反刑事告発/不当労働行為救済申し立て
2005/9/6窓口折衝
2005/10/3門前での集会とビラまき③
2005/10/12団交
2005/11/5門前でのビラまき④
2005/12/1団交 (回答悪ければスト突入の通告)
2005/12/9ストライキ,構内でのストライキ集会
--
2006/5/11構内でのビラまき
2006/6/13団交 (予定)
今までの団交の回答はすべてNO.
その中で唯一の良い回答は,6月14日の窓口折衝で,今年から嘱託講師に現職の常勤講師も応募できるようになったと知らされたものだった.(前年までは常勤講師は応募できないと明記されていた)
しかし,同時に,4年目の常勤講師には,来年は非常勤のポストすら提供しない,という方針があるという根強い噂や,専任教職員からの説明があった.そしてこの噂や説明は団交では常に否定されてきた.
最終的に,2005年度に常勤講師の4年目だった者は,全員が,立命館のいかなる職からも排除された.
8. 止まるところを知らない不当労働行為
2005年6月24日,初めての門前でのビラまきに対する過剰な反応
X教授からA組合員への電話の内容
同X教授からB組合員への電話の内容
Y教授からC組合員へのメールの内容
2005年12月9日のストライキに対する過剰な反応
回答悪ければスト突入の通告をして臨んだ2005年12月1日の団交が決裂した翌日の12月2日,当局は,構内のいたるところに,「『ゼネラルユニオン』のストライキ通告について」というポスターをはりめぐらした.そのポスターは 「(ゼネラルユニオンが) 多くの常勤講師や嘱託講師の誇りを傷つけている」 などと,組合を誹謗するものである.
ストライキ当日の直接の妨害はなかったが,ストの3日後の12月12日には,「「ゼネラルユニオン」のストライキが,教員自らの教育権を放棄し,学生の教育を受ける権利や課外自主活動を侵害する不当な行為であることを改めて訴え,厳しく批判するものです」などと,ふたたび,ストライキや組合を誹謗するポスターを,全学にはりめぐらせた (これらのポスターは2006年5月現在もまだ貼ってある).
そしてその後,ストライキ参加組合員が,入試採点業務から排除された.この件は,組合から,そのようなことをするならば不当労働行為になるから改めよという警告を再三行ったにもかかわらず,強行したという点でも悪質である.
その他にも,不当労働行為は数知れずあるが,それは現在,大阪府労働委員会で審査中である.次回の審問は大学側証人を組合が反対尋問するという最も注目すべきもの: 6月5日(月) 1:00~3:00
* 不当労働行為については,2006年6月のビラも参照されたい.
9. 立命館争議の普遍性と特殊性
普遍性
・ 新自由主義
・ 雇用の不安定化=有期雇用の拡大
・ アウトソーシングによる「効率化」
・ 労働組合の本工主義
・ 職場に男性・日本人中心の差別構造があること
・ 不安定雇用のもとでの労働運動の困難さ
といった特徴は,何も立命館や大学の専売ではない.
特殊性 — ネガティブな面
・ 学部自治/全構成員自治の幻想と弊害
労働者ポイ捨てシステムも,学部自治/全構成員自治の民主主義の体制が作ったものであること.この民主主義から,非正規労働者は完全に排除されている.
・ アカデミズムの偽善
「進歩的」といわれる教職員が,率先して (いささかの悪気もなく) 「先進的な」雇用形態であるとして,労働者ポイ捨てシステムを推進し,これこそが「進歩的」と信じていること.
特殊性 — ポジティブな面
・ しがらみが比較的少ない外国人が多いこと,その中に母国で「まともな」労働運動の経験のある者が含まれること.
・ 非正規といっても,大学での労働条件が比較的良く,比較的余裕があること.
・ 本工主義やセクト主義,偽善的アカデミズムを超えて連帯できる本当に進歩的な教職員も少なからずいること.
10. 今後の展望
職場の人権 研究会 2006・5・27
ある私立大学の雇用差別と労働強化-使い捨てられる大学教職員-
ゼネラルユニオン 遠藤礼子
1. 立命館での「多様な雇用形態」= 労働者の使い捨てと分断
学校法人立命館には,期限のない「正規」「終身雇用」の教員と職員は,あわせて約2000人いる.
一方,非正規の教職員は「非常勤講師」が約1000人,「常勤講師」と「嘱託講師」をあわせて約300人,「契約職員」約300人,「アルバイト職員」約100人,その他もろもろあわせて約2000人と,非正規と正規はほぼ同数である.
【専任教員・専任職員】
正社員に相当する部分.専任教員・専任職員を組織する教職員組合は05年のボーナス1ヶ月カット問題で,授業時間に10分間くいこむストライキを貫徹した.だがボーナスカットは押し切られたまま.
【任期制教員】
通常5年契約で,更新ありのものとなしのものがある.任期制教授,任期制助教授,任期制講師.
【常勤講師】
週10コマ担当でフルタイムの3年契約.ただし契約書は1年契約の2回更新という形式で,そのあとに,オマケでもう1年というのが慣習化していて,実質は4年契約.年収約650万円 (諸手当込み).ほぼ全員が外国人の語学教員.4年たてば自動的にクビ.2005年に制度廃止が決定.
*同じ「常」でも「常用」なら期限の定めのない,という意味だが,「常勤」はフルタイムの意味.
【常勤講師制度の歴史】
1988年「1年契約 更新可」 として開始.協定校からの派遣.常勤講師5名.
1991年「3年契約」に変更.応募対象を日本在住者にも拡大.3年契約は少なくとも1999年までは行われ,その後,「任用期間3年 (ただし,契約は日本国の労働基準法に基づき毎年締結する)」という形になった.
1997年常勤講師27名体制に.
2002年常勤講師47名体制に.嘱託講師制度開始.
2003年常勤講師33名体制に.
2005年常勤講師制度廃止決定.2005年度採用の常勤講師が4年目を迎える2008年度末にすべての常勤講師がいなくなる,というのが当局の目論見.
【嘱託講師】
週10コマ担当でフルタイムの5年契約.2002年開始.ただし契約書は1年契約の4回更新という形式.年収420万円.外国人が大半だが日本人も多い.この手の制度を日本人講師に本格的に適用する例は珍しい.語学教員.5年たてば自動的にクビ.
【非常勤講師】
コマ単位の1年契約で,通常一校で2~5コマ程度担当.あちこち掛け持ちして週10コマ担当しても,年収300万円.私学共済などへの加入を多くの大学が拒否しているため,その中から国民健康保険と国民年金を捻出.
年数の上限はないので「うまくいけば」何年でも働けるが,毎年コマ減や雇い止めの不安がある.
【契約職員】
フルタイムの3年契約.ただし契約書は1年契約の2回更新という形式.事務職員の多くがこの契約職員で,1年目は仕事がわからない,2年目に慣れてきても,3年目は「どうせ来年はここにはいない」.年収約230万円.3年たてば自動的にクビ.
この制度は多くの大学 (私立も国立も) が導入しており,3年ごとに大学を転々とする職員も多いという.
【アルバイト職員】
フルタイム (35時間) の十一ヶ月契約.八月は仕事も給料もない.更に2回更新までという年数制限さえついている.時給800円.フルタイムなのに社会保険なし=健康保険法,厚生年金保険法違反.
実際は,これ以外にもまだまだたくさんある.
2. 常勤講師問題の「改善」としての常勤講師・嘱託講師制度
全国の多くの大学の教育は,非常勤講師に依存している.授業の50%近くを非常勤講師が担当している場合も少なくない.特に語学教育 (少人数クラスが必須) では,8~9割を非常勤講師が担当というのも珍しくはない.
非常勤講師の待遇が劣悪で,雇用が不安定であることは,今や社会問題となっている.最近になって,その改善のために,ようやく一部の大学では,賃上げや有給休暇の制度化などの労働条件の改善や,合理的な理由のない減ゴマ雇い止めの防止のための方策をとりはじめている.
一方,立命館大学では,2001年にコマあたり月給で100円の賃上げ (一部のランクのみ) をしたのを最後に,2004年に文科省の補助金の非常勤講師給の単価が1.5倍化されて,各大学が,大小の賃上げをしているにもかかわらず,1円の賃上げも行っていない.また,「より専門適合性がある人がいた」 ということが,減ゴマや雇い止めの合理的理由となるという新しいルールまで作って,雇用の不安定化を促進している.
このように,劣悪で不安定な非常勤講師の労働環境を一切改善することなく,「非常勤問題の改善」として打ち出したのが,常勤講師や嘱託講師の制度なのである.
さらに,2006年4月4日京都新聞掲載のインタビューの中で立命館の長田総長はゼネラルユニオンのストライキについてこうコメントしている.
「非常勤講師の雇用問題に対しては、語学教育の再編を考えている。専門の語学講師を派遣する会社を数年内にもつくりたい。教育の質が良くなるし、非常勤に頼るいびつな形も解消することができる。」
3. 3~5年ルール
このように,非常勤講師問題を解決するものとして,導入・拡大された,フルタイムの有期雇用講師の制度だが,問題は,そのすべてに,3~5年の雇用年数の上限を定めていることである.
1年契約×3 = 3年でクビ契約職員 約300名
11ヶ月契約×3= 3年でクビアルバイト職員 約100名
1年契約×4 = 4年でクビ常勤講師
1年契約×5 = 5年でクビ嘱託講師 計約300名
* これは,大学がゼネラルユニオンとの団交の席で説明した数字だが,研究会の後に,立命館の関係者より,アルバイト職員は100人ということはありえない (ずっと多い) という指摘があった.
大学の外でも,有期雇用は急激に拡大しているが,有期雇用の更新回数に上限を定めているものは少ない.しかし,大学・高校では,なぜかそれが「常識」となっており,大学・高校での,有期雇用のポストのほとんどに,更新回数の上限がある.
立命館は,このような雇用形態を全国にさきがけて導入した学校で,教職員あわせて約1000名という規模の大きさでも群を抜いている.
驚くべきことだが,「3~5年の雇用年数の上限」がどんなに残酷なものか,常用で働いている人には,理解できないことが多い.もしあなたが 「この不景気の中で3~5年間でも保障されているならそれだけでもありがたいと思えないの?」 と思ったなら,もういちど当事者の身になって考えてみてほしい.
3年ごとに職を失うというのは,3年ごとに求職活動をしなければならないということだ.求職活動は,最も楽に決まった場合でも,非常にストレスの多いものである.3年ごとに職を失い,学校を転々としなければならないのは,自分が好きで転職するのとは全く話が違う.よく,契約書にサインしたから自己責任などと冷たく言う人もいるが,好きでこのような雇用年数上限のあるポストを選んでいる者はひとりもいない.
そして,言うまでもなく,大量のスタッフが次々と入れ替わることが仕事や教育の効率を悪くすることはあっても良くすることはない.
このような首切り使いすて制度が,言葉を変えるとこのような話になるという例を紹介する.
「あなたが配ったビラの和文には、大学は先生方を「解雇」していると書かれています.私達は円満に「契約が終了」していると考えているし、契約書には契約期間が示されています.何か誤解していませんか.解雇という言葉は本当の事実と異なる訳し方で稚拙ですが,あなたが配布したものはそういう意味で世間に出ているのです.もし、あなたの意思や本当の思いと違った状態であるなら、あなたにとってそれは良くないことでしょう.
さらに言えば、あなたも前任の方の契約終了があって任用され,そしてまた次の方が任用される.こうして日本での○○語教育に携わる方皆さんの教育経験が広がっています.」
(不当労働行為の審査のために大学が労働委員会へ提出した,立命館大学専任教員の陳述書より)
これは,立命館大学の専任教員が,ビラ撒きをしたゼネラルユニオンの組合員に,電話で話した内容のうち,大学当局公認の部分である.実際は後述の通りもっとすごいことを言ったようだが,この大学公認の部分ですら,当該や当該の立場に立って考える者にとっては,ナンセンス極まりない.
しかしこれが,多くの専任教職員の認識であり,また,大学当局の認識である.残酷きわまりない首切りシステムを教育経験が広がってよろしい,と解説して平然としていられる人権感覚は,決してこの専任教員ひとりのものではない.この発言者には実際全く悪意はないのである.
こんな意味のない3-5年ルールが何故あるか.(「教育経験が広がってよろしい」的な理由を除けば) 唯一の理由は,3年以上雇うと,期限の定めのない雇用とみなされて,そのあと合理的理由なく解雇できなくなると困るから,というものである.
4. 雇用形態が変われば継続雇用は可能?
実際このような3-5年首切りシステムは,現場では嫌われている.せっかく仕事になれた職員,せっかく学校のシステムになれてきた教員を,なぜクビにして,また新しい人に一から仕事を教え,システムを説明せねばならないのか.
そこで,立命館では,各種の裏技を使って,雇用継続をしている例がたくさんある.原則は「雇用形態を変える」というものだ.典型例は以下のふたつ.
【例1】 教員の場合
常勤講師 (4年でクビ) のあと,1年間,非常勤講師として働き,その後,常勤講師として再雇用する.
【例2】 職員の場合
契約職員 (3年でクビ) のあと,クレオテック (後述) の社員として再雇用し,同じ職場に派遣社員としてもどる.
この方式は,広く行われていたものだが,もちろん全員に適用されてたわけではない.一部の人だけに,こういう特別な雇用継続が行われていただけである.
しかし,特に【例1】は,「3年以上雇うと,期限の定めのない雇用とみなされて,そのあと合理的理由なく解雇できなくなる」 という立命館の危惧とぶつかるため,今後はまかりならんということになり,2005年度からは,年限を迎えた教員は 「非常勤講師としても雇用継続は不可能」 ということになった.
実際,昨年4年目を迎えた常勤講師には,講師不足であったにもかかわらず,非常勤講師としての雇用継続はなかった.しかし,何故か,当局は,そんな方針はない,従前どおり雇用継続が変われば継続雇用は可能だと説明している.
5. クレオテック
ここまでで見てきた,直接雇用の労働者以外に,直接雇用されない多くの労働者が学校法人立命館では働いている.そのほとんどに関係しているのが,株式会社クレオテックである.
株式会社クレオテックは,学校法人立命館の100%出資の営利企業で,役員はすべて,立命館からの出向 (あるいは兼職) である.『大学変革 哲学と実践』によれば,クレオテックは「アウトソーシングで人的,資金的な効率化を図る」ための会社だそうで,新聞報道によれば,04年度の年商は,約75億円である.
ただし,クレオテックがやっていることのほとんどは,アウトソーシングのコーディネートだけであり,実際に仕事は請け負うのは別の会社や個人である.
駐輪場の自転車の整理を,A社という請負会社が請け負っている.それ自身はそんなに新しい話でもないが,その間にクレオテックが入っている
立命館
↓ 請負
クレオテック
↓ 請負
A社
立命館の事務室の職員の一部は,クレオテックの社員である.掃除やメンテナンスではなくて,ふつうの事務室の職員である.
立命館
↓ 請負 または↑派遣
クレオテック
↓ 雇用
職員A,職員B
授業アンケートの集計など短期の仕事もある.そこにクレオテックから派遣社員を入れている.そしてその社員は,大手派遣会社からクレオテックに派遣されている.
立命館
↓ 請負 または↑派遣
クレオテック
↑ 派遣
A派遣会社
6. 立命館の拡張主義
1995立命館慶祥高校発足
1996理工学部に光工学科,ロボティクス学科を増設
1997大学院政策科学研究科開設
1998文理総合インスティテュート開設
2000APU (立命館アジア太平洋大学) 開学.立命館慶祥中学開校.国際インスティテュート開設.
2003大学院言語情報研究科設置.大学院先端総合学術研究科設置.立命館宇治中学校開校.
2004情報工学部設置.法科大学院開設.理工学部電子情報デザイン学科,マイクロ機械システム工学科,建築都市デザイン学科を設置.
2005大学院テクノロジー・マネジメント研究科開設.立命館孔子学院開設.
2006立命館小学校開校.立命館守山高校開設.
7. ゼネラルユニオン立命館大学支部の活動
支部設立は2002年
2005年~の活動
2005/1/21団交
2005/5/31団交
2005/6/14窓口折衝
2005/6/24門前でのビラまき①
2005/6/26門前でのビラまき②
2005/7/8労基法違反刑事告発/不当労働行為救済申し立て
2005/9/6窓口折衝
2005/10/3門前での集会とビラまき③
2005/10/12団交
2005/11/5門前でのビラまき④
2005/12/1団交 (回答悪ければスト突入の通告)
2005/12/9ストライキ,構内でのストライキ集会
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2006/5/11構内でのビラまき
2006/6/13団交 (予定)
今までの団交の回答はすべてNO.
その中で唯一の良い回答は,6月14日の窓口折衝で,今年から嘱託講師に現職の常勤講師も応募できるようになったと知らされたものだった.(前年までは常勤講師は応募できないと明記されていた)
しかし,同時に,4年目の常勤講師には,来年は非常勤のポストすら提供しない,という方針があるという根強い噂や,専任教職員からの説明があった.そしてこの噂や説明は団交では常に否定されてきた.
最終的に,2005年度に常勤講師の4年目だった者は,全員が,立命館のいかなる職からも排除された.
8. 止まるところを知らない不当労働行為
2005年6月24日,初めての門前でのビラまきに対する過剰な反応
X教授からA組合員への電話の内容
「私は今,手元にビラを持ってる.今年度の最後に契約を更新したいなら,こんな事をしていてはいけない.貴方の来年の契約の後押しはできなくなる.契約を円満に終了しないと,他の仕事を見つけるのも難しいだろう」
「ビラの内容は違法だ.ゼネラルユニオンの評判は悪い.あの組合は何時もトラブルを起こしている」
「組合との関わりを考え直してほしい.ゼネラルユニオンに関係しなければ,貴方は大丈夫だ」
「私は立命館の事務当局の代りに電話をしている」
同X教授からB組合員への電話の内容
「貴方が今日した事,学生にビラをまいた事を考えると,貴方の4年目の契約を,どのようにサポートするか,わからなくなった.貴方達の要求は違法だ」「貴方が立命館でしている事を,他の学校が知る事はとても簡単だから,貴方の将来の仕事にたいへん良くない」「ビラに書いてある事は間違っていて,子どものたわ言だ.もう貴方を支援できない」
Y教授からC組合員へのメールの内容
「言語教育センターの人が,6月24日に配布されたビラについての報告書を見せてくれた.貴方が,学生にこのビラを配布した一人だという事で,当局が怒っている,と貴方に伝えるよう頼まれた.」「大学を誹謗する事は,契約違反とみなされる.当局が近いうちに,貴方に弁明の手紙を要求するかも知れない」
2005年12月9日のストライキに対する過剰な反応
回答悪ければスト突入の通告をして臨んだ2005年12月1日の団交が決裂した翌日の12月2日,当局は,構内のいたるところに,「『ゼネラルユニオン』のストライキ通告について」というポスターをはりめぐらした.そのポスターは 「(ゼネラルユニオンが) 多くの常勤講師や嘱託講師の誇りを傷つけている」 などと,組合を誹謗するものである.
ストライキ当日の直接の妨害はなかったが,ストの3日後の12月12日には,「「ゼネラルユニオン」のストライキが,教員自らの教育権を放棄し,学生の教育を受ける権利や課外自主活動を侵害する不当な行為であることを改めて訴え,厳しく批判するものです」などと,ふたたび,ストライキや組合を誹謗するポスターを,全学にはりめぐらせた (これらのポスターは2006年5月現在もまだ貼ってある).
そしてその後,ストライキ参加組合員が,入試採点業務から排除された.この件は,組合から,そのようなことをするならば不当労働行為になるから改めよという警告を再三行ったにもかかわらず,強行したという点でも悪質である.
その他にも,不当労働行為は数知れずあるが,それは現在,大阪府労働委員会で審査中である.次回の審問は大学側証人を組合が反対尋問するという最も注目すべきもの: 6月5日(月) 1:00~3:00
* 不当労働行為については,2006年6月のビラも参照されたい.
9. 立命館争議の普遍性と特殊性
普遍性
・ 新自由主義
・ 雇用の不安定化=有期雇用の拡大
・ アウトソーシングによる「効率化」
・ 労働組合の本工主義
・ 職場に男性・日本人中心の差別構造があること
・ 不安定雇用のもとでの労働運動の困難さ
といった特徴は,何も立命館や大学の専売ではない.
特殊性 — ネガティブな面
・ 学部自治/全構成員自治の幻想と弊害
労働者ポイ捨てシステムも,学部自治/全構成員自治の民主主義の体制が作ったものであること.この民主主義から,非正規労働者は完全に排除されている.
・ アカデミズムの偽善
「進歩的」といわれる教職員が,率先して (いささかの悪気もなく) 「先進的な」雇用形態であるとして,労働者ポイ捨てシステムを推進し,これこそが「進歩的」と信じていること.
特殊性 — ポジティブな面
・ しがらみが比較的少ない外国人が多いこと,その中に母国で「まともな」労働運動の経験のある者が含まれること.
・ 非正規といっても,大学での労働条件が比較的良く,比較的余裕があること.
・ 本工主義やセクト主義,偽善的アカデミズムを超えて連帯できる本当に進歩的な教職員も少なからずいること.
10. 今後の展望
by gurits
| 2006-05-28 18:42
| ニュース・ビラ

